それがある日、母は「頭金がゼロでも可」というマンションの分譲広告を新聞の中に見つけた。そのマンションは神奈川県の横須賀市にあって、今まで全くなじみのない場所だったけれど、早速応募をし、幸運にも当選することができた。
「来年の3月末に引っ越しすることになったから。4月からは横須賀の小学校に転校することになるから」。父と母からそう聞いて、私は「へぇー、私が転校生になるの?」と少しワクワクしたことを覚えている。よくドラマにも出てくるようなシーンを頭の中で描いた。教室の前で、私が一人立っていて、先生が「今度引っ越してきた俊子さんです」と紹介するシーンである。クラスメイトの皆が「俊子さんって、どんな子だろう」と私に注目している。
しかし現実は、横須賀のマンションは大規模開発による新興住宅地だったので、新しく小学校が1つ出来て、全員が転校生だったのである。私の甘酸っぱい転校生のシーンは、現実のものとはならなかった。
ところで前回お話ししマリコちゃんと弟の初恋は、突然の引っ越しにより幕を下ろすことになる。お別れの日が近づいたある日、弟はマリコちゃんから絵本『しろいうさぎとくろいうさぎ』をプレゼントされた。それはマリコちゃんの家にあったもので、弟がとても気に入って何度も読んでいた絵本だった。この絵本は有名なので、お話しを知っている人も多いと思う。
しろいうさぎと くろいうさぎ、二ひきのちいさなうさぎが、ひろい もりのなかに、すんでいました。
まいあさ、二ひきは、ねどこからはねおきて、いちにちじゅう、いっしょに たのしくあそびました。
でもあるとき、くろいうさぎは、とてもかなしそうなかおをしました。
心配になったしろいうさぎがたずねると、くろいうさぎはいいます。「ぼく、ねがいごとをしているんだよ。いつの いつも、いつまでも、きみといっしょにいられますようにってさ」。
するとしろいうさぎは「ねえ、そのこと、もっといっしょうけんめいねがってごらんなさいよ」といいます。
「これからさき、いつも きみといっしょに いられますように!」
「じゃ、わたし、これからさき、いつもあなたと いっしょにいるわ」
まるでくろいうさぎは弟で、しろいうさぎはマリコちゃんだと思った。絵本の中で二匹はたしか最後に結婚をしてハッピーエンドになるお話だったと思う。弟とマリコちゃんは、絵本のようにはいかなかったけれど、きっと、うさぎたちのように「ずっと一緒にいたい」と思ったのではないかと思っている。
今回で42回となった私の錦糸町の昔話も、そろそろ終わりが近づいて来た。引っ越しまで、あと2~3回、話を続けたいと思う。
今でもこの絵本は実家にあって、それを写真に写しました。
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